居住地を考える

空き家はコミュニティ再生の資源

空き家


日本の空き家問題は、人口減少や高齢化、都市部への人口流出により深刻化しています。
総務省推計によると、2023年時点で空き家数は約900万戸あり、これは総住宅数の約13.8%にあたります。
これらの空き家が放置されることによって倒壊や火災、犯罪リスクなどが増大し、また近隣不動産物件の価格下落を招くこともあります。

その空き家も有効活用されることによって「社会問題」から「コミュニティ再生の資源」に変わる可能性があります。
本Webサイトのテーマのひとつである地縁・血縁を超えた新しい形のコミュニティの形成や運営においても、空き家は様々なメリットを提供してくれます。

リノベーション

そのひとつに経済的メリットがあります。
空き家の購入や賃貸のコストは都市部の物件に比べて大幅に安価であることが多いため、新規コミュニティの立ち上げにおける初期投資を抑えることができます。特に、過疎地域では無料または低額で提供されるケースも増えています。

また、改修によって様々な付加価値を生み出すことができます。
空き家のリノベーションを通じて、シェアハウスやコミュニティスペース、ワークスペース、農作業拠点などコミュニティの様々な目的に最適化することができます。
空き家をシェアハウスやゲストハウスとして利用することで、短期滞在者、ボランティアなど多様な人々がコミュニティに参加しやすくなります。

自治体によって、空き家改修・リフォームに関する補助金制度が実施されている場合があります。
また、クラウドファンディングを活用することで、改修コストを抑えるという試みも見られます。

さらに、理念的なメリットもあります。
空き家の再活用は、新たな建築資材の使用を減らし、環境負荷を低減します。
それらはエコビレッジや農的コミュニティの理念である持続可能性とも一致します。

またさらに、地域社会との連携が促進されます。
移住者が空き家を活用することで、地元住民との接点が生まれ、コミュニティは地域に受け入れられやすくなります。
地元住民との接点が促進されることによって、空き家周辺の農地や自然環境を利用して、食の自給自足や循環型生活が実現しやすくなります。

ただし、文化や生活習慣の違いから移住者と地元住民との間では摩擦が生じる可能性もあるので、移住者側が地元の社会の中に積極的に溶け込んでいく努力も必要でしょう。

以下に、空き家を活用したコミュニティの例を紹介します。

俵山ビレッジ(山口県)
山口県長門市に所在する俵山温泉地区では、古い湯治場地区に点在していた空き家をリノベーションし、住居やゲストハウス、コミュニティスペースとして再利用する試みが進行中です。そこに全国から若者たちが移住してきています。
移住者である彼らは俵山温泉観光組合と密に連係し、街おこし活動にも積極的に参画しており、地域の再活性化に貢献しています。

トランジション藤野(神奈川県)
空き家や古民家を活用したプロジェクトや活動があり、住民や移住者と連携して地域資源としての空き家の再利用が促進されています。ここに持続可能な生活を目指す住民が集まり、アートや農業を軸にしたコミュニティが形成されています。
藤野観光協会も、移住先としての空き家活用を情報提供という側面でサポートしています。

NPO法人ひとつむぎ(徳島県)
大学生が中心となり、徳島県南部にある牟岐町を拠点に活動しており、特に出羽島での空き家活用プロジェクトを行っています。
建築家や地元メディア、住民と連携し、ワークショップを開催しながら空き家を改修。島の暮らしを体験できる施設として活用し、過疎化が進む離島での交流人口の増加と地域再生を目指しています。


空き家情報を手に入れるには、全国の自治体が運営する「空き家バンク」や自治体のサイトを活用するのが最も手軽で信頼性が高い方法です。

ほかには、「家いちば」「空き家ゲートウェイ」「みんなの0円物件」といった民間のマッチングサイトがありますが、土地建物には権利関係や様々な法律、そしてインフラなどの問題が絡んでくるので、取得価格が安いからといって安易に購入してしまうと、後で高額な追加費用がかかってしまったり、建て替えが出来ない土地だったりということも少なくありません。
取得する前には不動産の専門家からアドバイスを受けることをお勧めします。

(宅地建物取引士 やしろたかひろ)