知識

理想郷の実現を目指したヒッピー・コミューンの盛衰【後半】

ヒッピーの理想郷「テイラーキャンプ」

テイラーキャンプ

ヒッピーは現代の決められたルールの中で生きることに反発し、文明以前の原始生活に回帰しようとしました。その当時、ヒッピーの中でも究極の理想郷と言われていたのが「テイラーキャンプ」です。
テイラーキャンプにはルールもお金もなく、着る服も自由で着用しなくても大丈夫でした。
テイラーキャンプは、まさにヒッピー文化の最高潮にあたる1969年に、大学紛争を避けてアメリカ本土からハワイのカウアイ島で暮らし始めた13人から始まります。
お金も家もなかった彼らにカウアイ島の邸宅を与えたのは、女優のエリザベス・テイラーの兄、ハワード・テイラーでした。テイラーはお金に興味ない彼らに無償でこの土地を与えました。
彼らは指導者のいない理想郷をこの土地に作り上げました。自然の木から家を作り、裸同然の恰好で愛と平和の日々を過ごしたのです。その内多くのヒッピーたちがこの島に移り住みました。


ヒッピーコミューンの衰退

1960年代はまさに今までの世界の既成概念を崩す革命的な10年でしたが、1970年代に入るとヒッピーは長髪を切って社会に戻っていきます。
なぜヒッピー・ムーブメントは一過性のもので終わってしまったのでしょうか。
原因は様々ありますが、ヒッピーでは結局ベトナム戦争は止めらず、反戦運動や学生運動が激しくなっていく中、一向に体制を崩すことができなかった点にあります。
また、ドラッグの問題が表面化し、カルト化したコミューンも出てきました。
失望した彼らは社会に戻り衰退期を迎えます。
テイラーキャンプも周辺の住民たちとのトラブルが相次ぎ、1977年ごろに壊されてしまいます。テイラーキャンプの崩壊が、ヒッピー運動の最終的な終焉といってもいいかもしれません。
ヒッピーコミューンの多くは長続きしませんでしたが、その影響は現在の環境運動やコミュニティ活動に続いています。エコビレッジや農的共同体を作る運動、スローライフを提唱する運動などが、ヒッピーコミューンの精神を受け継いでいます。

現在でも残るヒッピーの村「ニンビン村」

ニンビン村

現代でもまだ以前のようにヒッピー文化が残っている場所があります。オーストラリアのニューサウスウェールズ州(New South Wales)にあるニンビン村です。
この村は、1970年代のヒッピー運動の中心地の一つとして知られ、今日でもその影響が色濃く残っています。
彼らはここで、自然と調和した生活、自由、平和、反権威主義の理念を掲げて共同生活を送り、アートや音楽、オーガニック農業、エコロジー活動などに取り組んでいました。この精神は現在もニンビンの文化の中に息づいており、村全体が自由でリラックスした雰囲気を持っています。
ニンビンの街並みは、カラフルでユニークな建物が立ち並んでおり、どこかアートな雰囲気があります。壁にはグラフィティやアートが描かれており、訪れる人々に自由で創造的な印象を与えます。オープンな精神が感じられ、観光客が訪れると地元の人々がフレンドリーに接してくれることが多いようです。
オーストラリアではマリファナは禁止されていますが、ニンビン村ではそのルールが黙認されています。
最近では世界各国で研究機関によるマリファナの医療効果が研究されてきていますが、ニンビン村では一般の人々がマリファナを自由に入手することが出来ることで、マリファナが健康増進に役立つことが実証されていると彼らは主張しています。
今の時代にもヒッピーは生きていることを、この村では目のあたりにさせられます。
世界各地からバックパッカーたちがニンビン村に集まってきています。既成概念に縛られた社会生活とは真逆の非日常の魅力に惹かれて、この村に残る人もいるといいます。
現在までニンビン村に政府の手が入らなかったのは奇跡といえるでしょう。

前の記事へ戻る